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僕たち二人は並んで図書室を出ると、昇降口へと向かった。
早川さんは途中「お疲れ様」とか「今日はありがとう」とか短い言葉を発していたけど、僕の耳には届かなかった。
僕は曖昧な相槌を打つだけ。
まともな返答などできなかった。
そのまま二人で進んで行ったのだけど、僕は階段の手前でふと立ち止まった。
早川さんは僕に気付かずに階段を降りていく。
長い黒髪を左右に揺らしながら、早川さんの体は一段降りるごとに徐々に小さくなっていく。
すとんすとんという響きも階段の奥底に沈んでいく。
僕には早川さんがどこか遠くへ行ってしまうような気がして、いてもたってもいられなくなった。
気が付くと僕は、遥か先にある早川さんの背中目がけて、叫んでいた。
「この後、一緒に過ごさない」
今、自分がすべきことを僕は分かっていた。
「だからその、僕と一緒にクリスマスを」そこまで言うと早川さんは、階段を半分ほど降りたところでぴたりと止まり、僕の方へと体を向けた。
僕にはそれがとてもゆっくりと感じられ、もどかしかった。
早川さんの髪の一本一本まで見てとれるようだった。
早川さんは僕の目を下から覗き込むと、悪戯っぽい笑みを浮かべ「もちろんよ。素敵なクリスマスにしてよね」と明るい声で言った。
その瞬間、僕の体には今までに体感したことのない衝撃が走った。
体が火照っているのが自分でも分かる。
僕がその余韻に浸っていると「行きましょう」と早川さんが先を促してきた。
僕はそれで、はっと我に返り、早川さんの方に視線を落とした。
けれどすでに、早川さんの姿はそこにはなく、もう先へと行ってしまったようだ。
僕は慌てて階段をかけ降りる。
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