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慶長八年(1603)の事、徳川家康の命令で彦根城の築城が開始された。
築城を指揮するのは、井伊直政の息子で、彦根城主に決まっていた井伊直継である。
だが、天守閣の築城に移った途端、工事ははかどらなくなってしまった。
どうやっても上手く工事が進まないのだ。
これには工事関係者達も『人柱を用いるべきでは?』と噂するようになった。
噂は当然、城主の直継の耳にも入って来たのだが……。
直継「人柱など立てた所で、工事がはかどる訳ではない。人命は無駄にしてはならん」
直継には、誰かを生贄にするつもりなど毛頭無かったのだ。
しかし現場がそんな調子であったから、工事は完全にストップしてしまった。
工事の責任者である井伊家の普請奉行は、大変頭を悩ませていた。
このまま工事が進まなければ、責任を取って切腹、というのも無い話ではない。
だが、現場でも自宅でも頭を抱えていた普請奉行の姿を、じっと見ている者がいた。
普請奉行のお菊という娘だった。
お菊は悩める父に、思い詰めた表情で切り出した。
お菊「……お父様、私を人柱にしてください!!」
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