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数日後、普請奉行の元に、直継から書状が届いた。
『お前達には今回の件で特に礼を言いたいので、夫婦二人で屋敷まで来てくれ』
という内容だった。
早速、二人で直継の屋敷を訪れた普請奉行夫妻は、とある部屋でしばらく待たされた。
二人が平伏して待っていると、直継が部屋に入って来た。
だが入って来るなり『面を上げよ』という直継。
夫妻が言われた通りに顔を上げると……。
奉行夫妻「……あッ!?!?!?」
お菊「お父様!!お母様!!」
そこには何と、埋められたはずのお菊が立っていたのである。
腰を抜かして喜ぶ夫妻に、直継は語り掛けた。
直継「……ワシはな、最初から人柱など立てる気は無かったのだ。
しかし工事現場の者共は、もはや人柱を立てないと納得出来ない様子だった。
だからお前の娘を埋めたと見せ掛けて、こっそり空の箱と入れ替えておったのだ。
……お陰で皆は人柱があると思い込み、工事は順調に進んだ。
今の今まで黙っていて済まなかったな、礼を申すぞ」
夫妻はただただ平伏して、肩を震わせながら涙を流すのみであったという……。
井伊直継、この時弱冠16歳の頃の話である。
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