弱気弱虫

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 弱虫が世間から駆除の対象と見られているのを、僕は知っていました。  見た目も生態も普通の人間と変わらないだけに、弱虫は社会に溶け込んでいました。  人間に混じった弱虫は波風立てずに暮らしていたのですが、ある日誰かが言ったらしいのです。 「弱虫を見ていると苛々しますよね?」  そんな筈はありません。  弱虫は人に迷惑を掛けたくないから『弱虫』と呼ばれているのです。  しかし、その卑屈な動きに目を付けられてしまっては、弱虫はどうすることも出来ませんでした。  弱虫は笑いながらビルを昇ります。  弱虫は笑いながら駅へ向かいます。  弱虫は笑いながら森に飲まれます。  高い場所は、弱虫にとって何よりも怖い場所なのに。  白線の外側なんて未知の世界なのに、カブトムシを探していた年頃でも森に入らなかったのに。  弱虫はその生涯を閉じる為に、様々な場所に散りました。
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