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水樹は杉原に二つ、お願いをされていた。
一つは自分の隊の人達に会わせること。そして二つ目は遠藤に自分の能力を自覚させることである。
(二つ目を大瀧さんがこんなに軽く言うなんて。)
大瀧は案内の目的を知らない。
遠藤が唖然としていると、杉原が足早に近づいてきた。
「滝!お前少しくらい空気読めよ!せっかく水樹がゆっくり言おうとしているのを邪魔して。」
どうやら大瀧は杉原に滝と呼ばれているらしい。
「は?んなもん知るか!てめえは人に気い使いすぎなんだよ!」
「それの何がいけないんだ!」
「うるさい!」
突然水樹が叫んだ。
遠藤を含め三人が体をびくつかせた。
「うるせえって何回いやぁ分かるんだ!そんなに喧嘩してぇんなら表に出てやれや!」
辺りが静まる。
水樹は人が変わったように怒鳴り散らす。
遠藤がゆっくりと大瀧と杉原を見ると、顔面蒼白になっていた。
「す…すみませんでした。」
「分かってくれればいいんですよ。」
遠藤が水樹の方を向くともう元の笑顔に戻っていた。
「それより、遠藤さん。突然の事で驚いたかもしれませんが、そういうことです。あなたには予知能力がある。その事を分かってほしかったんです。」
「いや、俺にはさっきの豹変ぶりのほうが…」
そこまで言ったとき、誰かに肩を掴まれた。
振り返ると杉原と大瀧が震えながら首を必死に横に振っていた。
水樹は不思議そうにこちらを見ている。
「な、何でもないです…。」
それしか言えなかった。
数秒間の沈黙が続いた後、杉原が口を開いた。
「そうだ。滝、上からの指令だ。出かけるぞ。」
「は?どこに?」
「それは移動中に話す。」
二人で話しているところに遠藤が割って入る。
「俺も連れてってください。」
大瀧が不機嫌な顔を露わに出し、杉原は苦い顔をした。
「俺も行きたいんです。自分の今いる状況を知るためにも。」
杉原がなだめるような言い方で説明してくる。
「遠藤には悪いがそれは無理だ。今、お前が平静を保てているのは沙樹下の音の力があるからだ。沙樹下の能力範囲はせいぜいこのフロアぐらいだな。お前がここを出るとなると、音の効果が消えて全ての感情が返ってくる。最悪、ショック死なんて事もあるんだ。」
遠藤は息を呑む。
決心をつける為に杉原の方へ一歩前へ出る。
「それでも行きたい。信じてください。」
遠藤は杉原を真剣な眼差しで見つめた。
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