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その時はまだ拓真と紅葉の間に子供はいない。
拓正は拓真の首を拓真が持っていたブーメランで斬り落とした。
瞬間、拓真の能力は拓真に最も近い血縁者、つまりは拓正に移り、拓正の魂は(後に狩人が世界の循環のために仕向けたことが分かるが )この世に存続した。
その魂は実体のある血縁者、遠藤拓真の体の中に入った。
拓正が自分のした罪に気付いたのは事件が起きてからちょうど二十四時間後であった。
遠藤拓真となった遠藤拓正はその時拓真が持っていた能力を全て手に入れた。
拓真は狩人に会い、拓真自身の魂を戻して欲しいと頼んだが不可能であった。
拓正は桜家と遠藤家から離れ、拓真が築き上げた本部にも顔を出さず、闇へと消えた。
拓真が陸館達の前に現れたのは半年前程であった。
「罪滅ぼしがしたい」という拓真の言葉を陸館は信じた。しかし、桜紅葉は結婚こそ破棄しなかったものの拓真には近づかなかった。それは拓真も同じだった。
「これが、拓真君、ひいては拓正の犯した禁忌なんだ。遠藤君に会いたくない拓真君の気持ちも分かるだろう?」
遠藤は頷かなかった。遠藤の脳裏に、今までの拓真の様子、思い出が蘇る。
おそらく拓真は拓正ではなく遠藤と桜の父親として振舞っていたのだろう。拓真の体との拒絶反応によって弱っていく中、それでも遠藤快を失わないために本部へ行き、紅葉や皆の先祖に遠藤達を会わせたのだろう。
全てを失った男の唯一の希望である遠藤と桜は拓真にどう映っていたのだろうか。
高校一年生の文化祭で拓真が遠藤と桜に頭を下げたことがあった。今思えば、あの時に介入してきた海藤翔平は拓真の禁忌を知っていて拓真の真相を止めたのかもしれない。
遠藤の目から自然と涙が流れていた。
陸館は遠藤の涙を見て微笑む。
「それはどんな感情を洗い流してるの?」
「…さぁ。」
遠藤は今、拓真の笑顔の裏に隠れていた罪を知った。それと共に、遠藤は自分の使命を悟った。
「陸館さん。俺は二人の子供としてやるべきことがあります。」
遠藤は立ち上がる。雨は止んだ。今なら外に一歩を踏み入れることが可能だ。
「桜紅葉さんと遠藤拓真を会わせます。それが、俺がここに来た運命です。」
遠藤は屋根の外に最初の一歩を踏み出した。
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