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遠藤が車に乗り込むと、大瀧が念入りに話してきた。
「いいか、何があっても俺達を信用しろよ。正気が保てなくなったら自分を殴って気絶してろ。」
「わ、分かりました。」
杉原は桜庭と話している。
話し終わると杉原は二人に向かって言った。
「遠藤がどうなるか分からないから地下駐車場に移動させてもらう事にした。」
「りょうか~い。」
大瀧は気楽に言う。
自然と心臓の鼓動が速くなる。
「じゃあ行くぞ。」
そう言うと車が浮き、一瞬で違う場所に着いた。
(あれ、何もない?)
力んでいた遠藤が一瞬力を緩む。
その瞬間、遠藤の心にずしりと重いものがのしかかった。
今までの記憶が蘇る。
田中との争い。
杉原との出会い。
沙樹下、水樹、大瀧、桜庭との出会い。
心臓が張り裂けそうになる。
今までの恐怖が一気に身に来る。
「う…あああああ!!」
遠藤は体中を掻きむしり、嗚咽混じりに泣きだした。
体が熱い。
全身が痛い。
「流石にそうなるやな。杉原、お前あいつに会った時にもう音使ってただろう。」
大瀧は必死な遠藤をよそ目に笑顔で杉原に声をかける。
「まあ…そうだ。だけれども俺はあいつを信じる。頑張ってくれ、遠藤。」
昨日今日と会った人の顔が浮かぶ。
田中・杉原・沙樹下・水樹・大瀧・桜庭
全員が虚無に思える。
信じろ
杉原の言葉を思い出す。
今本当の意味が分かった。だが、もうその言葉を信用出来ない。
全てが嘘、偽りでできているように感じる。
廃人と化す寸前、遠藤の脳裏に一人の顔が浮かんだ。
桜 楓
桜の笑顔が浮かぶ。
今日の朝、桜が初めて見せた自分への愛。
恐怖が次第に和らぎ消えていった。
大人しくなったのを確認して杉原が話し始めた。
「音のリターンが終わった時に起きる静寂の時間のうちにお前の頭の中に情報を入れておく。いいか、まずは俺達の仕事についてだ。俺達は主に人が持っている特殊能力を保管する事が仕事だ。世界で起きている超能力の殆どは嘘だ。しかし超能力は実際にある。そして、能力者は三種類に分けられる。一つは俺達。二つ目は悪用しようとする者達。これについては冷静な時に話す。そして三つ目は状況が掴めていない者達。お前みたいな奴だ。俺達は二つ目の人間から能力を取り返し、三つ目の人間から能力を取り、保管する事が目的だ。今のお前は耳から取り入れた情報を全て頭に入れる。起きた時に覚えている事を祈る。」
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