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いつもは賑やかな住宅街。今は街灯だけが道を照らしている。一軒も明かりがついていない。
街灯が一つの道を導いているような奇妙な感覚にとらわれる。
そして導かれるまま走っている男がいた。
脚が重い
息が切れる
ゴールは無い。後ろから追ってくるものを振り切ればゴールといえるだろうか。
そんな気持ちとは裏腹に後ろにいる『何か』との距離が徐々に狭まってくる。
何かが肩に触れる。
男は後ろを振り返る。
そして…
「うわああああ!」
先程まで住宅街を走っていた少年は布団を力のままに蹴り飛ばした。
(またあの夢か…。)
汗だくの額を袖で拭って布団から起き、目覚まし時計を見る。まだ鳴っていない事から予定外の早いお目覚めだと知る。
少年の名は遠藤快(えんどう かい)。少し頭が良いくらいの至って普通の一人暮らしの高校生である。
遠藤が悪夢に頭を抱えていると台所の方から声がした。
「あら、今日は起きるの早いわね。」
早速訂正だ。遠藤は幼馴染(義理の家族)と暮らしている『普通の』高校生だ。二人は捨て子であり、血は繋がってなくとも姉弟のようなものだ。但し、どちらが兄か姉なのかは未だに双方譲らない。私は兄と妹だと思うのだが。
この二人に疾しいことは一切無い。単にボロアパートで一緒に暮らしているというだけだ。この家では『やましい事=死』を意味する。全くもって、『普通』だろう。
話を戻す。
男の前で話しかけてきた少女の名は桜楓(さくら かえで)。
眉目秀麗だが、性格は生粋のサド。この家では料理と掃除を担当している。
(なんで桜は朝から元気なんだよ…。)
「余計なお世話よ。」
額におたまが飛んできたので、遠藤はとっさに躱した。どうやら桜には読心術があるようだ。
「早く起きたなら何か手伝いなさいよ。」
桜は布団の上で動かない遠藤に不平を言ってくる。
「俺は何をすればいいんですか、桜様。」
遠藤は皮肉混じりに言う。
「分かってるじゃない。じゃ、ゴミ出し行ってきて。」
(肯定した!)
遠藤は心の中で突っ込んだ。
「当たり前よ。さ、早く!」
今日の桜の読心術は調子が良いようだ。
遠藤は渋々ゴミ出しに行った。
一階のゴミ捨て場へ行くと大量のカラスがゴミを食い荒らしており、遠藤はカラス達にドロップキックをお見舞いした。
カラスが消えた後、そこにあったのは食い荒らされたゴミでなく、男性だった。
ボロボロの服を着ていたがそこには語れない威厳があり、何より、
ゴミ臭かった。
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