2.纏 腐

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「え、どういうことですか?」 「そろそろ戻るぞ。」 大瀧は遠藤の質問を無視して言った。 遠藤が座り直した時、一瞬で見慣れた車庫に着いた。 「大丈夫だったか?」 桜庭が眠そうな調子で聞いてくる。 「ああまあな。」 大瀧は球を取り出す。 「これを頼む。」 「お、捕まえたのか。」 桜庭はそう言って大瀧から球を受け取り、どこかへ行ってしまった。 「よし、俺達も帰るか。」 遠藤は大瀧の方を向いた。 「帰るってどこにですか?」 大瀧は驚いた表情で遠藤を見る。 「そりゃ家に決まってんじゃねえかよ。」 「え、ああ。」 遠藤の反応を見て大瀧は笑う。 「ああそうか。お前、彼女から逃げてるんだったな。」 「彼女じゃないです。」 遠藤はきっぱりと言う。 「まあまあ、じゃあ良かったら俺の家に来いよ。」 遠藤にとってそれは嬉しかった。家に帰るのが気まずいからだ。 「お願いします。」 「じゃあ付いてこい。」 大瀧は迷路のような廊下を迷うことなく進んでいく。 「ここだ。」 大瀧は一つの扉の前で止まった。 「じゃあ入るぜ。」 ドアノブを回し、ドアを開けた。 中は広い一軒家と繋がっているようだった。この扉も能力によるものなのだろうか。 「くつろいでいいぞ。」 大瀧はそう言って冷蔵庫からビールを取ってきた。 「大瀧さん、今何歳ですか?」 「二十六歳。」 杉原よりも年上だ。 遠藤は急いでドアを開けた。 だがそこにあった景色は普通のどこかの街中だった。 遠藤はゆっくりとドアを閉めた。 「大瀧さん、なんですかこれは?」 「あーそうか。知らないよな。そのドアノブは特殊でな。俺の指紋にしか反応しねえんだ。」 大瀧は既に酔いがまわってきていた。 「大瀧さん、質問があるんですけど。」 「何だいきなり、かしこまって。」 遠藤は一つ咳をしてから話す。 「大瀧さんはさっき、能力じゃ何も変えられないと言っていましたよね。じゃあどうしてこの仕事をしているんですか?」 大瀧はビールから手を離す。 「確かに俺はそう思った。実際、世界が無意味な物と思った事がある。だけどな、それでも何か出来る事があると思った。こんな俺でも何かを助けられるんじゃないかと思ったから、今、俺はここにいる。」 大瀧はそう言うとソファで寝てしまった。 (何か出来る事か…。) 遠藤も疲れのせいか、寝てしまった。
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