55.内股膏薬 五陰盛苦 英雄

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味鋺はナイフを離してその場に仰向けに倒れる。神庭は味鋺を抱きかかえると部屋の出口まで歩き出した。 「小鳥遊と通信が繋がらない。味鋺さん。意識を保って。」 「あ…うん…。なるべく、頑張るよ…。」 神庭は部屋を出ようとドアの取っ手に触れる。その瞬間、その取っ手が爆発した。この爆発に巻き込まれた神庭は後ろに跳びながら怪我の具合を感じた。 その時、背中から腹を刀が貫いた。神庭が背後を見ると、そこに笠松終が立っていた。 「な…んで…?」 「君達は非常に惜しい戦いをした。詰めが甘かったわけではない。これは仕方のないことだ。笠松家の能力に対して知識不足だったのが、君の敗因だ。」 笠松は刀を刺したまま神庭の肩に触れる。 「すべての葉が枯れ落ちるIFの世界で。」 神庭と味鋺は突如現れた木の葉に包まれ、その木の葉が散る時に姿を消した。 「不死の君はここまでしないと死なないだろう。まさかとは思うが、アランの力を借りたか?それならば、私をここまで追い詰めた理由も頷ける。」 笠松終もまた、息子と同じように能力上限のリセットを行っていた。そして、笠松の眼は片桐を捉える。 笠松は座って指遊びをしている片桐に近付き、同じ目線の高さまでしゃがんで彼女の頭を撫でる。 「辛い思いをさせてしまって申し訳ない。しかし、君の知性を戻せば君は必ず私達の敵になる。そうなれば殺さなくてはいけなくなる。それは困る。今のままなら私は君を敵とはみなさない。どうか、夫の帰りを待っていてくれ。私の息子は決して君を捨てない。まして、君に会う前に死ぬような人間ではない。」 笠松終は片桐へ微笑むと立ち上がって部屋の外に出る。 「神庭大雄君、味鋺誠太朗君。君達のことは決して忘れない。」 笠松はその部屋を出る。崩壊した壁や床のどこにも神庭や味鋺の姿は無い。二人がこの世から消えた今、部屋では片桐の笑い声だけが響いていた。
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