847人が本棚に入れています
本棚に追加
(くさ!何だよ一体…)
遠藤が怪訝そうな顔をしていると男が話しかけてきた。
「君…、このアパートに住んでいる人?ちょっと聞きたいことがあるんだけどいい?」
遠藤は頷いた。男は俯いた様子で続ける。
「ここらへんで財布を無くしちゃって…、見つけたら教えてくれないか…。多分ずっとここにいるから…。」
遠藤は男が哀れに思えてきた。遠藤はいつも常備しているバッグから財布を取り出し、お札を数枚出した。
「これ使ってください。三千円しかないけどないよりましです。」
高校生の一人暮らし(二人暮らし)にとって三千円はでかい。
男は手を出して遠藤から受け取った。
よく見ると男は二十代前半ぐらいの若々しさだった。
(若いのに苦労してるんだな…)
遠藤は何故かその男を拝みたい気持ちになったが、流石に失礼と思い直前で止めた。
遠藤は自分の部屋へ戻っていった。
「面白そうな奴だな。」
二十歳そこそこの男は遠藤の後ろ姿を見て微かに笑った。
遠藤は部屋に戻った後、桜に報告した。桜も困っている人は放っておけないタイプだ。
「ふ~ん、私も探してみようかな。」
桜は茶碗にご飯を入れて、食卓に朝ご飯を置いた。
桜の料理はいつも美味い。少し腹立つ。
ご飯を食べ終わった後は一緒に学校へ向かう。
端からみれば仲むつましい光景だがそうとはあまり言えない。
二人で歩いていると後ろから二人を呼ぶ声がした。
「遠藤~!桜さ~ん!」
声の主は田中直哉(たなか なおや)。高校から学校が一緒だが、それ以前から面識がある。
「いや~、今日もいい天気で。朝っぱらからデートですか…」
田中は言い終わる瞬間にこめかみに桜の拳がクリーンヒット。
田中は二、三歩後ずさりするが堪える。
「そのナイスボディから繰り出されることなら全てを受けとめられます!愛で!」
田中はどや顔混じりに自慢げに言う。
田中のフェミニストが発動したところで、桜は更に攻撃を加える。
桜のスパーリング相手になっている田中を遠藤は何故か和やかな目で見守っていると、学校のチャイムが鳴り響いた。
「やば、急ごう!」
三人は走り出した。
(なんてベタな…。)
遠藤は心の中で呟く。
隣から「本当よね」と聞こえてきたが、遠藤は無視を貫いた。
最初のコメントを投稿しよう!