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「仕事ってどういうことですか?」
『現場』に立つ高校生三人と大人二人。その中で、『組織』だけが発言権を持つ。遠藤の質問は桜庭に向けられた。
「まあ、仕事だ。あの、ほら、そこの二人がいるから話しづれえんだよ。」
歯切れの悪い回答。遠藤が桜と笠松を見る。二人とも唖然として固まっていた。
「…分かりました。じゃあ後程。」
そう言って遠藤が現場から離れる。桜と笠松も遠藤の後を追った。
大瀧と笠松がすれ違う瞬間、大瀧は『何か』を感じた。しかし、大瀧が呼び止めようとした時は既に三人はいなかった。
「遠藤、あの人達誰なの?」
帰り道、夜の街中。ネオンの下で笠松が遠藤に訊く。
「まあ…知り合い?」
遠藤の曖昧な解答に不満を持ちながらも、笠松はそれ以上聞くのを止めた。
「それにしても、何であそこが死体現場って分かったんだ?」
「僕の情報網を甘く見ないでよ。極秘ルートからの仕入れ。」
笠松が自慢気に言う。桜は電車で来たため、駅で別れた。遠藤と笠松は駅の近くにある駐輪場に向かう。
駐輪場に着いたのが午後八時。子供は補導の時間が迫っている。喫茶店で一服して、死体現場に行っただけでここに来てからもう三時間も経ってしまっていた。
「じゃあ帰ろう。あれ、鍵が…。」
自転車を見つけてから笠松が自転車の鍵を探し始める。準備不足に遠藤はため息をついた。
「早くしろよ。」
遠藤は呆れながら笑って笠松を待っていた。
その瞬間、遠藤の頭に『ノイズ』が走った。
「笠松!こっちに走れ!」
笠松は突然の大声に戸惑いながらも遠藤の方に向かった。
「どうしたんだ急に…」
笠松がそう言った時、数秒前にいた場所で刃物が真横に振られた。
「うわあ!」
刃物は服は掠めたものの、笠松の体には当たらなかった。だが、再び遠藤の頭に『ノイズ』が走る。
「笠松!右に避けろ!」
笠松が右に避けたと同時に刃物が縦に振り下ろされた。
その時ようやく相手の顔が見えた、が、相手は全身をコートで覆い、顔はフードで隠してあった。
笠松は相手の持っていた刃物を蹴り飛ばし、相手のフードを飛ばした。
「お、女!?」
フードの下から現れた顔は、可愛らしい高校生と思われる女子の顔だった。顔を見られた女子は途端に顔を赤らめて慌て始めた。
「あ、どうしよう!?」
踵を返して走り去っていく。その姿が見えなくなると、二人は地面に座り込んだ。
「た、助かった…。」
「何なんだあいつ…。」
「さてね。それより遠藤、何であの子の動きが分かったんだい?」
笠松創は見逃さない。聞き逃さない。逃がさない。その質問は遠藤の根源に関わるものだ。だが、その答えを遠藤も知りたがっていた。
これが自分の能力であるのは間違いない。しかし、寝ずに『ノイズ』が流れるのは初めてだった。
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