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授業中、遠藤はずっと考え事をしていた。
夢に出てきたバラバラ死体の正体が分かった。一緒にいて自分を引き止めた人間もハッキリと思いだした。
その視線が笠松と桜の方に向かれる。二人とも『未来』なんて考えず、授業に集中している。
(どうやったらあんな状況に…?何で『------』がいた?杉原さんや大瀧さんは何でいなかったんだ…。)
「おい、遠藤。」
教師という生き物は授業を聞いていない生徒を察知する能力にばかり長けている。突然のご指名も当然のことだ。
「は、はい。」
「お前、この問題を解いてみろ。」
遠藤が前に出て、黒板にすらすらと答えを書く。その様子を笠松は観察するような目で見つめていた。
昼食時、また笠松が遠藤の下に行った。その声は心なしか少し暗く感じた。
「昨日はあの後大丈夫だったの?」
「ああ、大丈夫だった。それより笠松、お前…」
「ならいいよ。用はそれだけだから。それじゃあ。」
笠松が教室を出て購買に向かう。今日は見送るだけではない。
(止めなくちゃ。笠松を。)
遠藤の夢の中、確かにあそこには『笠松創』がいた。そして、
遠藤は教室を出た。笠松の姿は無い。話しかけるタイミングを逃す。
そして放課後、帰りのSHRが終わると同時に遠藤はバッグを持って笠松の下まで足早に移動した。
「おい、笠松。」
バッグを笠松の机の上に置く。まだ立ち上がってすらいない笠松を見下ろす。
「あ、遠藤の方から来るなんて珍しいじゃないか。何だい?」
笠松はいつもと同じように気楽に挨拶する。
遠藤はまだ座っている笠松の机を叩いた。
「お前、またあそこに行くんじゃないだろうな。」
笠松は遠藤の言葉に驚いたか、図星か、明らかに動揺していた。
「ああ、その事ね。…今日暇?」
声のトーンが変わる。子供が周りに聞こえないように囁く時の声だ。真面目な顔の裏には戯けた心が蠢いている。
「ああ、暇だけど。何で?」
「今から僕の家に来ないか。話したい事がある。」
「分かった。」
止めるならここが最後だ。遠藤が承諾すると、二人の様子を見ていた桜が近付いてきた。
「何を話してるの?」
「今日、遠藤がうちに来るんだけど、楓も来る?」
笠松の言葉に桜の目が輝く。彼女は身を乗り出して笠松に顔を近付けた。
「行く!」
「よし、じゃあ行こう!」
笠松が鞄を持って立ち上がる。三人は教室を出て、笠松の家へ向かった。
笠松の家は学校から自転車で三十分ほどで着いた。両親は不在なようで、遠藤と桜は笠松の案内で彼の部屋に入った。
部屋の中はきちんと整頓されており、本棚には超自然現象や超能力についての悪趣味な本が沢山並んでいた。
その本棚を見ていると、ドアの鍵が閉められる音が聞こえた。ドアの前に立つ笠松は不自然な笑顔をにんまりと貼り付けていた。
(ドアに鍵が付いているとは何とも金持ち…)
「さて。これで遠藤はここから逃げられなくなったね。」
「え?」
「え?」
遠藤と桜の声が重なる。二重奏に割り込んだ笠松の声は酷く恐ろしいものに感じた。
「教えてもらうよ、遠藤。君の能力について。」
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