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窓の外から聞こえる小鳥のさえずりに遠藤はぼんやりと目を覚ました。
(ここはどこだ…。俺は確か…!)
遠藤は記憶を全て取り戻した後、自分のいる場所を確認した。
(自分の部屋だ…。)
その時、部屋の戸が開いた。戸の前には濡れタオルを持ってきた桜が立っていた。
「起きた!」
桜はタオルを地面に落として遠藤の上にかぶさってきた。
「バカ。心配したんだから!」
涙ぐんだ顔で桜は言った。
(あれ?いつもと違う?)
その後、桜は態度を180度変えて言い放った。
「起きたなら肩揉んで。」
遠藤は桜を少しでも可愛いなどと思ってしまった自分を情けなく思う。
その時、扉の向こうから声がした。
「病人に無理させるな。俺がしてやるから。」
(この声の主は…。)
声の主が部屋に入ってきた。
やはり杉原だ。
(じゃああれは夢じゃなかったのか…。)
遠藤が桜に言う。
「桜。すまないけど杉原さんと二人きりで話がしたいんだ。ちょっと部屋から出てくれないか。」
「まあ…いいけど…。」
そう言って桜は杉原の方を見る。
「ああ、俺の事は気にしなくていいよ。」
「そうですか…。」
桜は退室した。
部屋の中は遠藤と杉原二人だけになった。最初に口を開いたのは杉原だった。
「まあ、まずは改めまして自己紹介を。俺は杉原十岐。二十五歳。10月10日生まれ。天秤座。好きなアニメキャラ…」
「そこは聞きました。」
遠藤がツッコむ。
杉原が笑顔になった。
「おお、聞いていたか!やはり只者じゃないな。」
「それより昨日のアレ。なんだったんだ。」
杉原の目が鋭く光る。
「やはり覚えているか。どこから説明したらいいのか…」
「初めからお願いします。」
遠藤は即答だった。
「分かった。」
重苦しい空気が漂う。
「まずは、お前の友人の田中だがあらゆる記憶が欠乏していた。」
遠藤は田中を思い出した。
「田中は!田中はどうなったんだ!」
杉原は遠藤を宥める。
「まあ待て、落ち着け。順を追って説明する。田中の全てが嘘の固まりだった。今は俺達のチームが預かっている。そしてついさっき仲間からメールが送られてきたんだが、内容は信じがたいものだった。」
杉原は深呼吸し、話を続けた。
「ある人が試したところ、田中の記憶は十五歳で消えていた。つまり田中の人生は中学三年時に終わっていたんだ。」
窓が開いているせいか、風が二人の間を通り抜けていった。
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