(七)京都の学生

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何事もすぐに返事を聞きたがる佑介は、いつもはっきり答えをくれる向井の一言に背中を押されて、さっそく京都府警に電話を入れた。 幸い、向井の直属の上司は、わりと放任主義で、何より向井を信頼してくれていた。 だから当然、今回も「別のルートで、犯人を追跡したい」と、向井が言えば 「君が、自分の責任の元でやれる自信があるなら、公安の相手は私がしておくよ」と、心良く了承してくれた。 新幹線の中で、京都府警からFAX送信されてきた資料を読む。 府警で行われた桐生尚人の事情聴取は、わずか二時間ほどで終わっていた。 なぜなら、彼がゲームをしてくれたおかげで、銀行の大物達が絡む不正事件が浮き彫りとなり、その件に関しての捜査を優先することが重要視されたからだ。 むろん、国からの援助金が絡んだ不正請求事件、それをないがしろにして、ゲームの出どこを先に調査するなんて、世間も国も許すはずがなく… このため桐生尚人という学生が、乞食からもらったバーコードリーダーが、どこから出たかは二の次だった。
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