(七)京都の学生

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「君、桐生くんは、それ以来、その乞食の老人を見かけたことはないのかい」と向井。 「えっ…」 この時、尚人は一瞬、返事につまったが、でもその後、 「あ、はい。それ以後も、それ以前も、あのじいさんを見かけたことはないです」とだけ、簡単に答えた。 向井は妙だと思った。一瞬、尚人が何か隠しているように見えたからだ。 それもそのはず… 一週間前のこと。 ちょうど東京の警視庁が、多数の政治家と、東都大の学生達を狙ったテロともいえる犯罪に、振り回されていた頃、 桐生尚人は、大学合格時以来の達成感と喜びに包まれた時を迎えていた。
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