(九)回想から、現実へ。

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「それじゃあ、これどうぞ。せいぜい気がすむまで調べて下さい」 そう言って、尚人はあきらめ切って、向井にパソコンを差し出した。 この時、内定していたゲーム機メーカーからの採用書類が、すべて郵送で送られて来ていたことを、尚人はどれだけ感謝したことか。 あの時は、最先端のゲームを作る企業なのに、採用書類が郵送とは、実にアナログだなと思っていたが… 受信ボックスのメールがすべてなくなっている事態を受けて、正直、郵送という手段がまだ残っていて本当に良かったと、尚人はつくづく思っていた。 向井は、尚人をこの件で責める気はもうとうなかった。 桐生尚人もまた、加害者にさせられた学生の一人だと思っていたからだ。 ただ、偶然にしては、尚人の周囲で怪しい事件が重なって起きている点と、もう一点、気になることがあった。 それは、尚人が最初に出会ったという乞食のことだった。
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