(九)回想から、現実へ。

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ただこの様子では、そう簡単に口を割らないだろうと思ったので、自分の名刺と佑介の名刺を一枚ずつ差し出した。 「まぁ、何か思い出したら、その名刺にある携帯の番号に連絡しておくれ。頼んだよ」 尚人は顔を上げぬまま名刺を受け取り「分かりました」と一言。 「最後に、もう一点、尋ねたいんだが。君、就職先が内定してるって、さっき言ってたよね。それってどこかな?企業かい?」 尚人は、自分の鼓動を感じて、手が震えてきた。 「えっ、どうしてですか?どうして僕の就職先なんか聞かれるんですか?そんなの捜査に関係ないでしょ」 この時、ようやく顔を上げたが、ひどく警戒した表情を浮かべていたことは、自分でも分かっていた。 「いや何、参考までにだよ」 「そうそう。参考までだ。お前、正直に答えろよ。第一、隠したってじきに調べがつくんだからな」 横にいた谷岡がまた口を挟んだ。
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