(九)回想から、現実へ。

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尚人は、自分達が実験材料に使われたという向井の推理に、妙な説得力を覚えつつも、乞食のことは決して言わないと、なおさら強く心に誓っていた。 就職が内定している天授堂に、東京の捜査官達が足を運ぶなんてことがあったら、自分の将来にも影響しかねない大問題に発展すると思えたからだ。 向井達は、その日かなり長い間ねばって、東京に帰って行った。 だが、彼らが尚人の前に現われたその日から三日後、尚人は再び京都府警に呼び出されることになった。 もう二度とここへは来たくなかったのに、なんだか不吉。 むろん、それは事情聴取ではなかったものの、警察の門をくぐること自体こりごりだった。 その日の明け方、京都府警から電話がかかってきた。 身元不明のある男の遺体の確認をして欲しいとの連絡だった。 今朝早くに河の中に浮かんでいたその男は、白髪にヒゲ面の老人だった。
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