(九)回想から、現実へ。

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新聞配達をしていた人が川をのぞき込んで見つけたらしい。 僕は、曖昧な記憶を辿ることもなく、青ざめたその老人の死体を見せられた瞬間、あの時の乞食だと証言した。 なにしろその男の着ていた着物が、橋のたもとで出会った乞食のじいさんの着ていたボロ着と同じだったし、出来るだけ早急に終わらせたいという気持ちが強かったからだ。 じいさんは、冷たい川に昨晩誤って落ちて、心臓麻痺を起こしたらしい。あっけないものだ。 だが、本当に足をすべらせて川に落ちたんだろうか? 尚人は少し不信に思ったが、乞食が死んでしまったことで、東京の向井達捜査官も、自分のところには、もう決して姿を見せないだろう。 そう考えて安堵していた。 けれどそれから数ヶ月後、尚人はいやが応にも向井と再会するはめになるのだが…
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