(五)点をつなぐ、捜査開始

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むろん不正の内容はそれぞれに違っていたが、大手企業や各組織の役職クラスの隠蔽行為が公になり辞職が増えて、上層部が若返り、ひいては新人の雇用の場も増える。 ネットの若者を中心にした掲示板などでは、自分達の就職口が、あたかもそれで増えたかのようにささやかれ、密かに話題になっていた。 こうした個々の不正流出事件を、過去に渡って取り上げ、 一つ一つ線でつないで考える者は、まだ世間一般には、マスコミの関係者でさえいなかった。 むろんクィーン製紙の御曹司の事件は、あまりにも彼の生活がハデでスキャンダルめいていたので、大手マスコミの恰好の餌食となって騒がれていた。 だが、その他の事件は、各企業、各団体の本部が置かれている地方でのみ報道されただけで、それらがすべて、コンピューターに侵入するあるウィルスという共通点でつながっていることなど、どこの新聞社やテレビ局も、まだ情報として入手しておらず、全国的には報道されていなかった。 それぞれの不正流出事件は、地方の一ニュースとしてのみ話題になり、一つ一つが個々の点でしかなかったからだ。 それらがいつか線でつながるなんて、誰もこの時思っていなかった。
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