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ズルズルと体を引きずりながら俺はどこへ行くともなく前へ進んだ。どのくらい進んだのだろうか。急に目の前が開けた感じがした。
「よお」
男の声がする。その声もどこか遠くに聞こえた。
どうせ、新聞で叩かれる。じゃなきゃ、スリッパか。ああ、そうだ。どうせなら、一瞬で楽になりたい。熱湯がいいな。最後に激動の一生の汗を流すのもなかなかに乙じゃないか。
俺が潔く負けを認めたとき、
「いい勝負だったぜ」
はっ、とした。
「お前と戦えて楽しかった……もし、違う出会い方をしていたら……俺らいい友達になれたかもな」
なぜだろう。泣きたいと思った。もしも、俺に感情を表せる手段があるなら、真っ先にそうするだろうと思った。いや違う。俺の心はすでに、泣いていた。
ありがとう。素直にそう思った。こんな俺にねぎらいの言葉をかけてくれる人間がいるとは思わなかった。こんな体に生まれて、そんな言葉には縁も縁ない虫生を送ってきて、諦めていた。いや、そんなこと考える暇すらなかった。ただ必死だったからだ。生きるために。
「また次の生まれたとこでがんばれよ」
当たり前だバカやろう。いい返したかったが、俺には手段も、その力もない。
ははは……なんだよちくしょう。これがツンデレってやつなのかい? 男のツンデレなんて気持ち悪いだろうが。でもまあ、
ありがとな
そうして俺は死んだ。
もしも、もしも、次生まれるとするならば、俺は何がいいだろうか。答えは決まっている。
そして、たぶん……またその次も同じ選択をするのだろう。約束だからだ。男と男の。俺はがんばらなきゃならないんだ。必死に這いつくばって。
でもまあ、神様。次は欲を言わせてもらえば、
アースジェットだけは勘弁してください。
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