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だが、その考えはあまかった。カチッと何やらプラスチック同しが噛み合う音がしたかと思うと、細い棒状の何かがセーフティゾーンに差し込まれて来た。
なんだ? こんな棒で俺を追い出そうというのか? ふっふっふ……バカめ! そんな子供だましみたいなものに俺が引っかかるとでも? とんだ文明の利器だな!
俺が余裕の構えでその棒状の物をあしらっていると、先端から煙が噴出してきた。
何だと!? まさか延長ノズルだとでも言うのか!?
「ふははははは! 死ね死ね死ね! 地に落ちろおおおおお!」
すでに這いつくばっているのだが、などと受け答えしている暇などない。俺は神速の動きで致命傷を回避しようとした。
目の前に迫る毒ガス! 後方に飛びのきつつ、毒ガスの射出範囲から抜け出ようとする。
まずい……避けきれない!
そう確信した瞬間、右目に激痛が走った。必死の回避運動もむなしく、毒ガスは俺の右目をかすめて行ったのだ。
ぐわああああああ! 目が目が目が!
右目に走る激痛に思わずしゃがみこんでしまいそうになる。だが、そんな暇はない。そうこうしている間にも毒ガスが迫ってきているのだから。
「くっくっく……あっけないものよのう……」
数瞬の惨劇の後、男は勝ち誇ったように呟いた。ああそうだな……お前の勝ちだよ。もう俺には時間がない。毒が全身に回るのも時間の問題であろう。
そこはさながら被爆地だった。体中が痛く、まるで生まれたての子鹿のように体の奮えが止まらなかった。焼けただれた右目が炭火のように熱い。
もう……だめだ。
死ぬしかなかった。男の言っていたように這いつくばって死ぬしかなかった。
痛い。全身が痛い。ちくしょう。なんでこんな死に方せにゃならんのだ。俺が何したっていうんだ。普通に生活して、普通に食事して、真っ当に生きてきただけなのに、なぜこんな目にあわにゃならんのだ。くそ……もう、前が見えねえ。
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