石川 勇治 20歳 会社員

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石川 勇治 20歳 会社員

先日、兄が死んだ。7階建てビルの屋上から飛び降りたそうだ。 はじめ警察から連絡があったときは、ただの悪戯かと思ったが、それを見た瞬間に事実だと分かった。 それは僕のよく知っている兄そのものの姿だったが、魂の抜けたそれはまるで兄の抜け殻のようだった。 父と母もそれを見た。その瞬間、母は泣き崩れ、父は呆然と立ったまましばらく動かなかった。 兄はなぜ自殺をしたのだろうか、全く分からなかった。 なぜ自殺したいほど苦しんでいるのに相談してくれなかったのだろうか。 かけがえのないたった1人の兄を失った哀しみは計り知れない。 帰宅し僕は兄の部屋に入った。散らかった部屋だった。僕は机の上の封筒に気が付き、見てみた。 手紙のようだ。しかし内容はとても短かった。 なぜ生んだの? ただそれだけの内容だった。兄が残したのはこの手紙と、哀しみ、喪失感だけだ。 これらを残すために生まれ、死んだの?
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