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山崎 千佳子 20歳 大学生 1話
暗闇の中、周りの建物や自動車、街灯から放出される光が私の上に乗っている男のシルエットを映し出す。
「ちか、イクぞ。」
その台詞を吐いた後、私の腹部に生暖かい液体が飛び散る。
「ゴム付けてよ。」と何回言ったか分からないが、私の発言は無視され続けている。なんて自分勝手な男なんだ…。
私とこの男が知り合ったのは半年前。毎日のように繰り返される教授の念仏のような講義からストレスを発散させるために、友人とクラブに行き偶然知り合い、なぜかその場で意気投合し仲良くなり始めた。
私自信、生活の為にバイトをしていたし、彼自身も社会人として働いていたので、正式に付き合いはじめたのは4ヶ月前くらいからだろうか。
そして彼の借りていた部屋で同棲を始めた。もちろん、このことは親には言っていない。反対される予感がしたからだ。
私はシャワーを浴び、左手首の切り傷を見ながら、妊娠していないだろうか、もし妊娠したら学校はどうするのか、親はなんて言うのか、あの男はなんて言うのか…。そんなことばかり考えてしまっている。
しかし今さら別れようとしても、なかなかできない。あの男と同棲するために、もともと借りていた部屋を手放し、行く場所がないからだ。
本当に私のことを考えてくれているなら避妊してほしい。けど、あの男は実際避妊してくれない。つまり私のことを考えてくれていない。じゃ私はあの男の何なんだ…。ただの性欲処理のための存在なのだろうか…。
私の価値ってそんなものなの?
心の中に込み上げてくる圧倒的孤独感。まるで世界から切り離された存在…。
シャワーの音も耳に入ってこない。だか目の前にあるカミソリの存在は鮮明に目に入ってくる。
誰か私の気持ちに気が付いて。こんなに孤独を味わい、自分の価値すら見失った私に気が付いて。寂しい。
ザッ……。
いつの間にか右手に握りしめられていたカミソリは、私の左手首を切り裂き、床に流れるシャワーのお湯は透き通った透明から血の混じった色に変わっていた。
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