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拳が打ち出される前に、ヒューは締めに入っていた。
「────coda(終結部)」
その言葉と共に、そっと、弓を離す。
「──────っ」
完璧だった。
ヒューの中ではこれ以上ない程の出来だった。
リズム、音、どれをとっても以前の自分を越えられた。
それほどの、出来。
の
────筈だった。
打ち出されたアレクの拳を顔面に食らうまでは。
「────な」
ブレる視界に、ヒューは驚愕する。
何故、距離感はしっかりと把握していたはずだ。
計算も出来ていた。
間に合うはずがなかったのだ。
(何が起こった……こんな、に、早く辿り着くはずが……)
興奮とアドレナリンの分泌により痛みは薄く、考える余裕はあった。だが、それに肉体はついて来れず、減速した世界の中でヒューはせめて何が起きたかを分析していく。
そして、結論に辿り着く。
それは、一線の光から。
それは、一筋の静電気から。
(────まさか)
加速。
その二文字が浮かび上がる。
疲れ切ったアレクの肉体は今の自分と同じようにアドレナリンにより痛みさえ感じないだろう。
それはつまり脳からの電気信号により作り出された分泌物だ。
体のダメージが許容範囲を超えると脳は負担を減らすためにそういった信号を送る。
(アレクは、それを利用してより早く動けるようにしたのか……!?)
馬鹿なと切り捨てる事も出来ない。
それが不可能という可能性は高くとも、出来る可能性もあったからだ。
一つは、ヒューを止めた雷撃。
静電気とはいえ電気自体飛ばすことは簡単ではない。
それをアレクは咄嗟に行ったではないか。
まさか。ヒューは、その考えを振り払えないでいた。
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