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「この街を襲う気だろうか」
それにしては数が少ない。
狼煙台から下を見れば、相変わらずの賑わいがある。あの三十人が街を襲えば、忽ち混乱することは明白だった。
「ん……?」
ふと、何か引っかかった。頭を過ぎったのは「混乱」という言葉だ。
さっき考えていたことが頭に浮かんでくる。漢の終わり……混乱……。
天下に混乱が起こる。馬騰は、そう考えていたのである。
「もしかしたら……」
あの賊たちが、天下を混乱させるのかもしれない。
そう思うと、体が自然と動いた。普段は時間を過ぎたら働かない。わざわざ命の危険を冒すこともない。それに加え、この日は正規兵が出払っており、その分のツケが、馬騰たち日雇い兵に回ってきており、いつも以上に疲れていた。
だが、体はすんなりと動いた。むしろ、いつも以上に軽く感じる。
狼煙台から飛び降り、駆け出す。
既に日が殆どないが、まだ街は人でごった返していた。掻き分けながら進むことを覚悟していた馬騰だったが、格好が兵士の鎧だったため、道はすんなりできた。
縫うように走り抜けると、門に向かった。
「馬騰じゃないか」
門番は二人いる。片方の男が声をかけてきた。馬騰と同じ日雇い兵士の男だった。正規兵の事を考えると、もう一人も日雇いだろう。
既に一日の仕事を終え帰ったはずの馬騰が現れたことに、男はとても驚いた顔で近づいてきた。
「どうした。今日はもう終わったはずだろう。忘れ物か?」
「賊が来る。三十人くらいだ」
手で汗をぬぐいながら、早口に告げると、男は大声で笑い出した。
「まさか。都に向かう商隊を襲うわけでもあるまい。たった三十人じゃあ、何もできないさ」
笑いながら男は持ち場に戻った。その後、もう一人の男も、馬騰を見ながら笑っていたところを見ると、男が話したらしい。もちろん、話を信じることはない。
馬騰は改めて、国の滅びを感じた。
(平和に慣れきってしまっている)
そういう奴こそが、一番早くに死ぬんだ。馬騰は、そう思っている。
平和ボケしているからこそ、世の乱れを敏感に感じ取ることができない。そういうところに関しては、賊や荒くれ者たちのほうが鋭い。天下をよく見て、従ったり反発したりしているからだ。
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