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正面の賊が、鎌を振り上げた。
馬騰は、がら空きになった懐へと潜り込み、剣を振り抜く。骨が折れる音が漏れる。賊は白目を剥いて倒れた。
(やった……)
一人目を倒した。それを実感した途端、馬騰の身体を疲労感が襲った。既に後ろでは、別の賊が鍬を振り上げている。
前に転がってそれを避ける。なんとか立ち上がりながらも、右にいた賊の顎を、剣で叩いて砕いた。
今度は、敵を倒した余韻に浸っている暇は無かった。半ば飛び上がったように伸びきった馬騰の体目掛けて、左右から鎌で斬りかかってきたのだ。
数歩分跳び退り、鎌が通り過ぎたのを見計らったところで、再び体を前に進める。
その勢いのまま、賊の群れを通り抜けるように走り、二人を斬った。
まだ四人しか倒してはいないが、既に疲れてきている。
もしかしたら、緊張しているのかもしれないな、この極限の状況に。馬騰の心は、重くなる体とは裏腹に、昂ぶっていた。
「ちっ。おい、一斉にかかるぞ」
群れを率いているらしい男の指示で、八人の男が得物を振りかぶり、馬騰に襲いかかった。
馬騰は、咄嗟に地面を滑り、賊の下を潜り抜け、倒れていた賊の鎌を拾い上げる。
斬りかかった体勢のまま後ろを向いている男に向かって、それを投げると、鎌は放物線を描きながら飛んでいき、無防備な背中に突き立った。
(これで五人)
立ち上がって剣を構え直したところに、賊の一人が棍棒を振り回して向かって来た。
馬騰はゆっくりと息を吐くと、棒の動きを読み、懐に飛び込んだ。棒を避けたために剣が上手く使えず、止むを得ず柄で鳩尾を殴った。
(やはり、こいつら農民か)
鎧もつけていない賊は、呆気なく気絶した。武器もなく、防具もない。先ほど立てた予想を確信へと変えた馬騰。
「俺のために死んでくれ」
足元の気絶した賊の首に剣を突き刺しながら、言い放った。
一瞬だけ呆気にとられた賊だったが、馬騰の言葉を理解すると、ある者は笑い、ある者は怒った。そして全員が、馬騰一人に襲いかかる。
咄嗟に、近くにあった篝火の薪を抜き取り、正面にいた賊の顔にぶつけた。焼け爛れた顔を、押さえ悶える賊に、剣を突き刺す。
次第に近づいてくる賊の群れ。そこを目掛けて、馬騰は篝火の籠を投げつけた。鉄でできたそれは、炎に焼かれ、赤くなるほど熱されていたが、「これも試練」と馬騰は割り切った。
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