~ バプテスト ~

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    黒い触手へとAIRICEが放り込まれると、屋上を取り巻くように触手は侵食していった。立っているこの地面も蠢いている。まるで病院自体が生き物にでもなったように、だ。     だが、それは前触れでしかない。吊るし上げられた仲間を想ってだろう。悪意に満ちたフィルから、悪魔である者達は遠退いた。     「やはり、お前は敵だったんだなっ?」     下手に手出しができない。人質を取られたと同義。そんな中で、精一杯に問い質したのはレンだった。その眼光の先には1匹の白い犬。     角の生えたポメラニアン。ベルフェゴール。ベルは小さく笑うと、どこからか取り出した聖骸布を銜え、首を捻った。風にでも靡くように聖骸布が揺れると、燃え上がる炎が人のそれを形作っていく。     継ぎ接ぎのある身体にベルトが巻かれ、背には蝙蝠の様な悪魔らしい翼。聖骸布をヒラつかせ、まだ消えぬ炎の足跡を残した姿は、ベルフェゴール本来の姿である。     <敵とは穏やかではないな。我は誰の味方でもないと言っていたであろう。>     「……そうだね、そうだったねぇ。それを聞いて安心したよ、まったく。さあ、お前さんら。標的が変わっちまったよ。本腰を入れないとだねぇ。」     と、身体に触手を絡ませられたアスモデウスが言う。彼女は、このピンチでさえ楽しんでいる風でもある。いや、人質である自分すらも切り捨てろ、そうレン達に言ったのかもしれない。   そんな気遣いを見越したのか、フィルは酷く嘆息していた。        
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