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自首。それは自身が犯した罪を自ら捜査機関に申告する行為である。申告することによって与えられる処罰が少しだけ軽くなるため、とる行動としてはかなり有力な、賢い選択だ。
しかし反面、嫌なこともある。それはたとえどれだけ罰が軽くなろうと確実に数年、数十年は自由を奪われるということだ。人を、それも実の母親を殺しておいて自分勝手にもほどがあるだろうが、どんな犯罪者でもやはり自由は欲しいものである。
自由への欲求は人間の本能とも言える本質だ。赤十字に莫大な金を寄付する善人だろうが何千人を虐殺した最悪のテロリストだろうが、みな同じ人間という事実にはなんら変わりない。だから全ての人間はどういう状況であれ少なからず『自由』を欲しがる。
――たとえば朝。仕事への出勤時刻が迫っているのに『あと五分』などと眠ってしまうのも、『自由』な時間を求めた結果だ。
――たとえば受験勉強のとき。勉強に追われているときでも人は『自由』を欲しがる。行動に出さずとも必ず本心では『自由』を欲している。
そして『自由』への欲求は我慢すれば蓄積され、蓄積されるとやがて爆発する。受刑者が無謀な脱獄を試みたりするのも不自由な生活への不満といった点が大きい。
このように人間には本質的に、本能的に『自由』を求めてしまう。それが本心だ。
だから、
「自首、なぁー……」
このような考えを踏まえた上で、蟻也はうな垂れていた。複雑な心境の中を迷走している最中である。でもいつまでもこうしているわけにもいかないので自首は候補とし、他の方法を模索する。
「他の方法っていっても限られてるよなぁ……」
逃亡、自殺、一生殺害したことを隠し通す――まあ最後のはないだろうが。
「逃げるって言ってもそんなお金ないし、自殺もしたくないし……ほんとにどうしよう……くそ、なんで俺はあんなこと……」
悔やむ。けどまたさっきのような吐き気に襲われたくはないので深く考えることはもうしない。
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