第一章 姫は罪を糾弾せず

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――客観的に見る限りあまり反省いるようには見えない蟻也だが、べつにそういうわけではなかった。前述したとおり彼は現実を直視することができない。直視できない、向き合えないが故に、思考が一周して逃げることを考えてしまっているのだ。こういうところを見るに彼の精神力の弱さが伺える。半年前までまだ中学生だったような子供にこんな現実に耐えれるだけの精神力を期待するのもおかしなことなのだが。 「……もうどうにでもなればいい」  自暴自棄になる蟻也。長時間悩み続ける彼の唇はもうカサカサに乾燥していた。  それからさらに少し進むと蟻也の視界に街灯よりも少しばかり強い光が映った。自動販売機だ。 「ちょっとだけ喉、渇いたな」  立ち止まって蟻也はボソリとそんなことを口にした。そしてごそごそとズボンのポケットを漁る。なにかあったときのために財布を持ってきていた。 「お金持ってるしジュースでも買ってもう帰るか」  自販機に近づいて財布を開ける。千円札が三枚と小銭が少量。バイトはしていないのであまりお金は入っていない。蟻也はそこから一二○円を取り出して、自販機に投入した。カシャカシャ、という小気味のよい音を出しながら小銭が飲み込まれる。  自販機のボタンが一五○円の飲料のものを除いて点灯した。  ちょっとでもどんよりとした気分を晴らしたい蟻也は、爽快感を得られるであろうコーラのボタンを押した。次いでコーラの缶が吐き出される。  のっそりとした動作でコーラを取り出す。その場でフタを開け、一口飲んだ。しゅわしゅわと口の中で炭酸の泡が弾けた。 「ふぅ」  口から溜め息にも似た声が漏れる。そして彼は己が精神状態とはまるで逆の、星のよく見える澄んだ夜空を見上げて、 「やっぱり自首……しようかな」  やはりこのまま逃げ続ける罪悪感に耐えかね、そう呟いたのだった。
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