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相変わらず不機嫌そうな声で彼は言い捨てる。
「この程度でネを上げるようじゃ、俺のオモチャにもならねえもんな。」
髪に引かれて、頭の痛みは生理的な涙が浮かびそうな程だったけれど、彼の機嫌が一層悪くなったりしないように、私は必死につま先立って彼に近付いた。
「んだよ。
俺に尻尾振ってすりよってくんだ?
エサが欲しいってか?
誰が主人かは忘れちゃいないようだな?」
言葉だけは楽しそうなのに、彼の声の温度がまた下がってしまう。
私はまた自分が失敗した事に気付いた。
「ご、ごめんなさ………あっ!」
新たなる怒りに油を注いでしまうまえに謝罪しようと試みた私の言葉は、またしても与えられた痛みによって中断させられた。
今度は強く横へと引っ張られた髪に、私はバランスを崩して派手な音を立てながら椅子と机を巻き添えにして床の上へと無様に転がった。
床にしたたかに頬を打ち付けた私の視界に負荷に耐えきれずに千切れた髪がハラハラと舞い落ちる。
「俺に断りもなく、アイツラに遊ばれてんじゃねえよ。
この髪だって下手なシャギーで誤魔化そうとしてっけど、昨日やられたんだろうが!」
昨日、ペンケースが無くなった時に何故かカッターだけが机の上に残っていて、結んでいたヘアゴムごと髪の先を切られた。
帰りに美容院に寄ったから、誰にもバレていない筈なのに。
「ごめんなさ………っ!」
また、呟きそうになってしまった言葉を、彼からの視線の圧力で飲み込んでしまう。
「俺に謝ってんじゃねえっつってんだろうがっ!
お前は俺のオモチャなんだよっ!
いい加減自覚しろよな?
それともまだ覚えらんねぇか?
口で言ってもわかんねぇなら、身体に言って聞かすしかねぇよなあ?」
クク、と喉の奥の方で笑った彼はなんだか楽しそうに言った。
「選ばせてやろうか?
『もう2度とアイツラと口をきかない』か、『俺のオモチャだと判りやすいシルシをつける』か。
俺のモンで遊ぶヤツなんざいねえからな。」
楽しそうに言う彼はどっちを望んでいるんだろう。
だけど、クラスメイトの彼女達と全く口をきかないなんてきっと無理な話で。
だとすると選択肢なんてない。
「あ、あなたの『シルシ』を………くださ、あぁっ!」
答えを言いかけた途端に、彼の靴の先が私の眉間にヒットした。
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