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幸せに、なりたいと。もう辛いのは嫌だと。
いつの間にか固く握っていた手を、軽く上げた時だった。
「朔っ!」
「!……え、」
身体が反射的にびくついて、次いで脳が動き出す。
でも、彼がここにいて、俺に声をかける理由は分からなかった。
「ど、して…?」
「今、手握ろうとした?」
「!…関係、ないじゃん。」
「ある。」
戸惑うばかりの俺に理人はゆっくり近づいて来て、そして問うた。
話を聞かれていたのかと理解し、意味のない罪悪感に襲われた。
また俺は、馬鹿なことをしようとしてた。
理人が好きなままなのに、楽になりたくて、また逃げようとした。
逃げることしかできない俺を、責められているような気さえした。
だから言った。『関係ない』なんて。
関係してほしいのは、俺のほうだというのに。
しかしそれに即答で否定を返した理人は、険しい面持ちで俺を見降ろしてきたから、もう言葉がでなかった。
「俺が男と付き合いだしたから、俺といるのが嫌になったんだったよな?」
「あ…、」
険しい面持ちのままそう言葉を続けた理人に、掠れた声が漏れた。
そうだ。理人に聞かれて、俺は否定しなかった。
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