リヒト←サク

17/18
163人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
幸せに、なりたいと。もう辛いのは嫌だと。 いつの間にか固く握っていた手を、軽く上げた時だった。 「朔っ!」 「!……え、」 身体が反射的にびくついて、次いで脳が動き出す。 でも、彼がここにいて、俺に声をかける理由は分からなかった。 「ど、して…?」 「今、手握ろうとした?」 「!…関係、ないじゃん。」 「ある。」 戸惑うばかりの俺に理人はゆっくり近づいて来て、そして問うた。 話を聞かれていたのかと理解し、意味のない罪悪感に襲われた。 また俺は、馬鹿なことをしようとしてた。 理人が好きなままなのに、楽になりたくて、また逃げようとした。 逃げることしかできない俺を、責められているような気さえした。 だから言った。『関係ない』なんて。 関係してほしいのは、俺のほうだというのに。 しかしそれに即答で否定を返した理人は、険しい面持ちで俺を見降ろしてきたから、もう言葉がでなかった。 「俺が男と付き合いだしたから、俺といるのが嫌になったんだったよな?」 「あ…、」 険しい面持ちのままそう言葉を続けた理人に、掠れた声が漏れた。 そうだ。理人に聞かれて、俺は否定しなかった。 .
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!