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そんなことを考えていたら、隣に座る菅野からコホンと咳ばらいが聞こえて、ハッとした。
顔を向けると、思いのほか真剣な表情をする菅野がいて、自分も慌ててシャキっと座りなおした。
「それで、西野朔くん。」
「は、はい…。」
いきなりフルネームで呼ばれて動揺。
俺のこと呼び出したのは菅野なんだから、知ってても不思議じゃないんだけど。
真剣な表情のまま体ごとこちらを向いた菅野は、はっきりと俺に告げた。
「好きです。俺と付き合ってください。」
「え、……。」
手を差し出す菅野に、視線を泳がす。
さっき初めて話したばかりだけれど、きっと菅野のことは嫌いじゃないと、思う。
けれど、俺の中には理人がいて、でもこれは諦めなくちゃいけなくて、もう辛い恋はしたくなくて、でも菅野を好きになれるかなんて…。
俺の思考はパンクしそうなのに、菅野が追い打ちをかけるかのように。
「絶対幸せにしてみせる。西野が笑顔でいられるような…、ささやかな幸せだけど。」
ささやかな幸せ。笑顔でいれるような。
それってすごく魅力的。
菅野を選べば、そんな未来が待っているのだろうか?
自分の中に迷いが出た。欲が出た。
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