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「それでも貴方は人間なんだよ」
私がそう言うと、彼は笑った。
笑ったのだ。
その笑みがあまりにも淋しいものだったので、私は言おうとした言葉を飲み込んでしまった。
…いう気には、なれなかった。
(ああ、なんて顔で笑うのだろう)
彼はきっと、他に誤魔化し方を知らないのだ。
それでも誰もが騙されてしまうのは、彼の嘘がうまいからなのだろう。
けれど、今、この時ばかりは誤魔化しきれない。
現に彼の手は、指先が白くなるまでに強く、握られていたから。
「人間…、」
小さく呟いてから、彼は強く握っていた拳を開いて、私の頭を撫でた。
「ばかだなぁ」
そうして、彼は優しげに笑ったから、私はちょっぴり泣いてしまったのだった。
「…、」
彼が何かを言った。
それは何かの音に掻き消されて、死んだ。
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