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「ハァ・・・ッ」
肌寒いすきま風が遠慮なしに入りまくる、古い居酒屋で
あのカンパニーでの最後の一仕事を終えた俺は、一人寂しくお猪口片手に酒に入り浸っていた。
「残念だったな‐、トミー!
せっかく入社できた大企業だったのに」
「親方 それ禁句・・・」
俺の《富山》の名字をもじって《トミー》と呼びかけるこの親方は・・・
俺がカンパニーに入社すると共に、こっちに移住してきたときからのなじみだ。
そのあっけらかんとした雰囲気が親方の魅力だが、今の俺には耳障りに思えてくる。
「で 新しい勤め先とか決まってんのかい?」
「全然・・・お先真っ暗、暗中模索。
ついさっき辞令渡されたばっかりだもの・・・」
そう。
突然の辞令に、次の収入源のメドや働き先については、全く何も先が見えていない。
両親に素直に事情を話して、実家に帰るのが良いのか・・・はたまたこの地に残り、コンビニ店員で地道に働くのが良いのか・・・?
ずれた眼鏡を人差し指で押し、ため息を交えながら直すと・・・
「はいよッ!(笑)」
目の前にゴトリと置かれたのは、皿の上でホクホクと湯気をたてている、大根や卵、白滝に牛すじなどのおでん達だった。
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