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「あ、巧さん!」
「何だ?」
「また、いらしてくださいね!」
「……気が向いたらな」
彼はそういうと、食堂を後にした。
さして今日はやることも無い。
それにまだ日中だ。
この何も無い世界。空気がおいしく、ただ空が美しいだけの世界でやることは、一つだけ。
ぼんやりと誰もいない日当たりの良い場所に寝転がり、昼寝を始める。
最後の瞬間も、彼の隣には二人の友人がいた。
そしてそこで自分は……。
別に不満なんて無かったはずだ。
夢を見つけることが出来たんだ。そしてそれを叶えてくれる友もいる。
自分だけの力では無理でも、きっといつか誰かが叶えてくれる夢。
だから、自分はもう舞台から去って良かったんだ。
なのに、何で自分は灰にならずにこんな世界へと訪れてしまったのだろうか。
分からない。
ここで自分は一体何をするべきなのか。
使い魔として召喚された自分は所詮あのちんちくりんの道具として生きていくことになるのだろうか。
誰かに縛られたまま言われるがまま、それは楽なのかもしれないだろう。自分もそれを選択したのかも知れない。
けれど自分は死という選択をした。
決して報われない、死の選択。
そうすることで自分が英雄になったつもりだったのだろうか。
そんな感情が一切無かったといえば嘘になるのだろう。
だけどそれはきっと全ての人の味方なんて傲慢なものじゃなかった。
せめて自分の手が届く先にいる人を助けようと、そう努力しただけの結果にしか過ぎない。
方法は悲惨だった。所詮自分は人殺しと蔑まれる存在にしかすぎない。
あてども無い考えを抱いたまま彼は脱力する。
きっとここなら良い夢が見れるだろう。
そう思いながら。
「いつまで寝てるのよ!」
唐突に腹部を強烈な痛みと圧迫感が襲い掛かり、目を覚ます巧。
「なにすんだよ!」
咳き込みながら凶行に及んだ犯人をにらみつける。
犯人は自分のご主人様を名乗るルイズだった。
「まったくいつなっても帰ってこないから探してみればこんなところで昼寝をしているなんて」
「別に俺が何処で何をしていようと俺の勝手だろ」
「あのね、貴方は私の使い魔なの。ご主人様の私の近くにいるのは当然でしょ」
そんなことは知ったことじゃないと巧は悪態をつく。
気がつけばあたりは薄暗くなってきており、風も心なしか冷たくなってきていた。
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