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空腹に急かされて足を運んだ先は厨房だった。
丁度良い。
少しばかりここで食料を分けてもらうことにしよう。
流石に飲まず食わずは体に堪えるものがある。
「あら、使い魔さん?」
不意に声をかけてきたのは、広場にいたあのメイドだった。
良いタイミングだ。彼女に少し食料を分けてもらう様に交渉してみよう。
「どうかなさったのですか?」
「いや、少し食べ物を分けて欲しくてな。朝から何も食ってないんだ」
「そうだったんですね。ちょっと待っていてください。マルトーさんに余り物が無いか確認してみます」
まさに渡りに船。
彼女が一人の髭の生えたコックに何かを話しかけると、皿をにいくつかの料理を乗せて行く。
その光景を眺めながら巧はぼんやりとなるべくなら冷えた物がいい、と思うのであった。
「どうぞ。ありあわせのもので申し訳ありませんが」
「いや、きにするな。ありがとな」
近くにあったテーブルを借りて食事にする。
当然、中には熱々のシチューなどのものもあるわけで。
「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ」
巧は熱々のシチューをすぐに口には運ばずに、何度も息を吹きかけて冷ましてからゆっくりと口へ運ぶ。
そんな巧の姿を見たメイドはある言葉を口にする。
「もしかして……猫舌、ですか?」
その言葉を聞いた途端に、巧の眉根にこれまで以上の皺がよる。
一番聞きたくない言葉だ。
実は一番気にしている言葉だったりもする。
「あ、気になさっていたのですか? ごめんなさい。まさか、貴族を倒したお方がこんな可愛らしい弱点を持っていたなんて思わなかったものですから」
くすくすと彼女は笑った。
別に馬鹿にしているわけではない。ただ、意外な発見をしただけだったのだろう。
どうやら、彼女も先程の戦闘を見学していたらしい。
物好きなことだ。
「お、お前さんが貴族に勝ったって言う平民か?」
メイドと話をしていると先程の口髭のコックが話しかけてきた。
「まぁな」
そっけなく返答してシチューを冷ますことに専念する。
「そうか、お前さんが俺たちと同じ平民でありながら貴族を倒したって言う英雄は」
「英雄?」
「そうだ! あの偉ぶった生意気な小僧に勝ったんだ。我ら平民の誇りだよ」
「そうかよ。別に俺は英雄になるつもりもなったつもりも無いけどな」
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