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「おい、これから一体何処へ行くんだ」
「五月蝿いわね。朝食よ」
「は、食事抜きの俺に自分たちの食事を見せ付けるってか」
「それは貴方が悪いのよ。貴方が私に従えば、最低限の食事、生活は確保してあげると言ってるの」
「それで俺に使い魔をしろってか? こんなわけも解らない世界にまできてどうして訳の解らん事をしなけりゃならねぇんだよ」
「良いから黙ってついてきなさい。どうせ、貴方は元の世界に戻る方法なんて無いんだから諦めて私の使い魔をしたほうが賢いと思うけど」
「……別に俺は元の世界に戻りたいって訳でも無いけどな」
「何か言った?」
「別に」
「不服があるなら勝手になさい。私だって別に好きであんたを召喚した訳じゃないんだから」
「そうかよ。こっちも良い迷惑だぜ。折角人が感動的な別れをしていたって時に」
「別れ? あんた一体何をしてたの?」
「色々だよ色々」
「その色々って何よ。気になるじゃない」
「別にお前やこの世界には関係の無い話だ」
全く持ってその通り。
この世界に灰色の化け物はいないし、そもそもあのベルトも此方には無い。
今更、昔のことを語った所で何の意味もない。
どうせ、この世界からしても荒唐無稽な話だ。
目の前のこの自意識過剰な少女が信じるとは思えない。
あの世界は今、どうなっているのかは気になるのだけれども。
前までなら、彼はどうでもよかったのだろう。
でも、夢が出来た今の彼には、気になって仕方が無いのだ。
(夢は呪いと一緒……か)
ふと、そんな言葉を思い出した。
確かに意味は解った。
その夢を実現する前に、自分は自分という存在を失ったのだから。
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