プロローグ ー回想ー

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新月の暗い夜は、森を駆け抜けるには絶好の時間帯ではあった。 木々の姿形さえ覆う闇は行く手に何があるか分からぬよう隠してはいたが、通い慣れた私の陣地内など目を瞑っていても容易く走り去れる。現にこうして真闇しか見えないけれど、木々を記憶を頼りに避けながら走り続けていられる。 逆に、初めて足を踏み入れる者にとってしてみれば暗闇を鬱陶しく思っているだろう。私の姿を捉えられず、雨が降った後の抜かるんだ地に残した足跡は思うように探せず、索敵魔術を行使しても陣地内では効力を発揮しないのだから。 「ハァっ……ハァっ……」 それでも、こんな好条件であるというのに距離を離せていないのは、相手が二桁(ツーナンバー)以上の実力者だからだろう。魔術で強化して全力逃亡を敢行しているのに、後ろから放たれる気配は一向に途絶えない上に、段々迫っているではないか。 マズイ……追い付かれるのは非常にマズイ。 今、二桁の実力者に追い付かれでもしたら私は応戦をせざる得ない。それは何としても避けなければ、都合上最悪の展開に陥ってしまう。 どうにかして追跡者を振り切るか、または諦めさせるかのどちらかが望ましい。だが、1位という冠を狙う挑戦者が諦める事は無いし、振り切ろうにも距離は縮む一方だ。
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