プロローグ ー回想ー

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というか、普通は声なんか掛けず、闇夜に紛れながら正体を知らせずにして殺しに掛かるのが普通である。 もし仮にでも仕留め損なった場合、今度は自分が狙われ返されるのかもしれないのだから、そのリスクを無くす為には手掛かりなど与えぬべきなのだ。 それを放棄したという事は、この男がただの馬鹿野郎であるか、それとも正体がバレようが殺し切る自信があるのか。もしくは、既に素性がバレているから隠す必要なんて無い、などと勘違いしているのかもしれない。 買い被って貰えるのは有り難いが、実際こうして話し掛けられるまで追跡者が男かどうかすら分からなかったのだから、彼の想像を崩すようで申し訳がない。 そう心内で自嘲し、相手方の出方を伺ってみるものの、どうも相手はこちらの言葉を待ちわびるかのように仕掛けて来ない。 だから仕方無く、私は彼に言葉を返した。 「鬼ごっこは終わりね。なにせここは陣地の行き止まりなのだから、これ以上進めやしないし逃げられはしないもの。迎え討つしかないじゃない」 「女の尻を追い回した甲斐があったってもんだ。こうして1位様と直接対決が叶うっていうんだから、苦労が報われたようで嬉しい限りだね」 私としては悲しい限りね。追い付かれさえしなければ、なんて後悔しているもの。
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