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ゆっこは変わった。
そりゃあ負けず嫌いなところだとか、屈託のない笑顔だとか、お母さん譲りの端整な顔立ちだとか、そういう根本は変わらないとしても。
白くきめ細かい肌は変わらないが、随分筋肉質になった。
昔はたいして変わらなかった背も、今では見上げてしまうほどなった。
声も私より低くなったし、「おぎしょ」って呼ぶこともなくなった。
ゆっこは男の子から男の人になった。そんな私は、女の人になれたのかはわからないけど。
日当たりの悪い学校の脇に一日中干していた洗濯物を抱えて、校内にある部室を目指す。部活のマネージャーなんてするものじゃない、と親に言われていたが本当にその通りだと実感する瞬間でもある。
自分の背丈ほどに積み重なる洗濯物を抱き抱え、ふらふらしていると急激に視界が開けた。
空が見える。敷地に生えてる草木も見えるし、こちらをきょとんと見つめる男女も見える。
「なっ…!」
「危ないじゃん、そんな小さいのに」
小木曽、毎日こんなことしてんの?なんて、洗濯物を抱えて笑うゆっこがいた。
私の肩にかかっていた荷物も全て抱えて、ゆっこは勝手に校内を目指して歩いてく。
ゆっこが5歩くらい進んだところで、ハッとする。呆然としていた。
あまりに爽やかに笑うから。あまりに男の人みたいなことするから。
「いいって!私持ってくから!」
「はいはい」
「じゃ、じゃあ肩にかけてるやつ!せめて自分のだけ持つから!」
ゆっこが足早になる。さっききょとんとこちらを見ていた男女の前を通り過ぎたとき、男の方がゆっこに声をかけた。女の方もつられるように声を出す。
確か、二人ともゆっこと同じダンス愛好会の人だ。
ゆっこが、急に立ち止まった。
荷物をくれるのかと思いきや、左手を差し出してくる。
「じゃあ、俺持ってて」
ぎゅっとされた、私の右手はどぎまぎしている。
久しぶりに繋がれたその手はやっぱり昔よりごつごつしていて、大きくて。ゆっこは何かを諦めたような笑顔を浮かべて、沢山の荷物を抱えてた。
「さっきの奴さあ、小木曽のこと紹介してとか言ってんの」
「…え?」
「相談する相手、間違ってるっつーのって感じ」
速度を緩めて、ゆっこがこちらを見た。困ったように笑ってた。
「ちゃんと持っておかないといけないのは、俺の方か」
そう言ってゆっこは、左手に力を込めた。
《はじめの一歩》終
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