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この寒い時期、お店に行けばバレンタインキッスだとかチョコレイトディスコだとか甘い歌が流れ、世間は目に見えて浮足立つ。
どんな店にも可愛らしく、いかにも甘そうなチョコレートの箱が並べられ、男の子も女の子も皆ワクワクだ。
今年も、そんなバレンタインデーが終わった。
バレンタインデー期間は、あまりメンバーに会う機会はなかった。だから私たちのバレンタインデーは、数日遅れにやって来る。
徹夜に近い状態でチョコレートを完成させる女の子たちの苦労は、次の日のみんなの顔を見ればとても共感できるというものだ。
仕事終わりにレッスンスタジオへ行けば、やはりみんなは少しげっそりとした顔をしていた。お互いに顔を見合わせて笑う。
「古川プロ!おぎゆりがチョコレート交換をしている模様!行きましょう!」
「な、なんてことだ!ベストショットを急がねば…!」
ロッカーを開けると、丁度後ろから聞こえた声はやけにワクワクしていた。「あっ、真那さんおはようございます!」なんて律儀に挨拶をして、あいりんはかなちゃんを引き連れてどこかへ消えて行った。
「元気だなぁ…」
勢いよく飛び出して行った二人の背を振り向きながら、独り言がそっと出た。
そんなあいりんは玲奈からチョコレートを貰えたのだろうか。かなちゃんはあきすんと無事に会えたのだろうか。
そう考えたらなんだか可笑しくて、二人の幸せそうな笑顔が思い浮かんで胸が暖かくなった。
不意に、いつもあの人が使っているロッカーが少し開いているのが視界に入る。
ちらりとはみ出るのは、女の子らしいピンク色のリボン。きっと人気者の桑原みずきのことだから、相当な数の想いが詰め込まれていることだろう。
少しだけため息をついた。
開けていたロッカーに向き直る。いつも持ってこないバックを入れようと持ち上げれば、ロッカーがいつもとちょっと違った。
みぃのロッカーからはみ出しているようなピンク色のリボンや、他にもクッキーの詰め合わせ、大きな箱までより取り見取り。
「……わあ、」
こう女の子が多いと、ロッカールームのロッカーまでもが女の子の甘い匂いに満たされるものかと思う。それと同時に、とても優しい気持ちで満たされた。
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