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「あっ、おっはよー!」
私より遅れてきた珠理奈も、隣でロッカーを開けて「わお!」なんて歓声をあげている。嬉しそうにニコニコしながら私を見てくる彼女は、いつもより幼かった。
そんな嬉しそうな横顔を見計らって、自分のバックを探り取り出したのは、あれ。
「うわあー、こんなにチョコ入ってるとか思わなかったー。かばんに入るかなあ?」
「じゅり坊、かばんに入らなかったら申し訳ないけど、はいこれ」
「えっ、マジ!?ありがとうー!」
イケメンだ。私の目線より少し高い位置にいる珠理奈は、その綺麗な顔をくしゃりとさせて笑った。
そして目の前で、私の作った物をすぐさまぱくりと食べてニヒッと笑う。珠理奈は、「超うまい」と呟いてから勢いよくレッスン場へ走って行った。
時計を見ればもうすぐレッスンが始まる。
「私も急がないと…、きゃっ!!」
「おお、いたのかカマキリ。存在感薄いき、見えんかったわ」
「なによー!」
入口へ急ごうとすれば、どん!と何かにぶつかって、それからなんだか私の好きな匂いがした。いつも通り、彼女は私にわざとぶつかっては素通りする。
みぃは少し息切れをしていて笑っていた。レッスン場からるみの笑い声が聞こえるところを見れば、きっと一緒に鬼ごっこか何かをしていたのだろう。
二人きりのロッカールームに、響くのはレッスン場から聞こえる笑い声と、私の鼓動。
チョコが溢れるロッカーの中からタオルを取り出したみぃは、今までで最高レベルなどや顔をして私を振り返った。
レッスンも始まっていないのに汗を拭うみぃは、ロッカーを開きながら笑う。まるでがき大将。
「どやー!このチョコの量!あ、カマキリにバレンタインは関係ないか…」
「ちょっとどういうことー!私だってこーんなに貰ったし!」
「はっ…!?カマキリにあげるような奴がいたんか…!?」
「ちょっとみぃー!!」
お互いにロッカーを開いて見せ合えば、入ってるものはほとんど同じ。
というか、そりゃそーだ。
メンバー分くらいなら容易に準備できるわけで、みぃにあげて私にあげないなんて、とりあえずは無いでしょう。
「多分同じ数だよ」
そう言えば、みぃは悔しいのかわかりやすくムッとした顔を作った。みぃも私のロッカーを覗いて気付いたのだろう。
妙な沈黙が流れる。
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