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いつも持ってこないバックの奥底に、周りの包装とは少し違う包みがある。
今日は渡せないかと思っていた。ずっと、渡せないかと思ってたの。
みぃにあげたいのは、上手くできた奴しか包んでないから。ちょっとだけ、みんなとは違うから。
「これ、…みぃに」
「…、…みぃに?」
「うん、…いらない?」
ゆっくり顔を上げた。ゆっくりみぃを見上げた。
みぃは、優しい顔をしていた。
「いる」
そう言って笑う。ずるいんだよ、みぃは。
こういう時だけ優しい声で。
こういう時だけ呆れたような優しい笑顔で。
でも、みぃはやっぱり勝ち気なままで。
「これでみぃはプラス1やき、…みぃの勝ちー」
がき大将みたいに、笑う。
そして私から受け取ったそれを片手に、私の頭をくしゃりと撫でた。
どっちが年上かわからない、そういう勝ち気なところが嫌いじゃない。
「でも、」とみぃは続けた。
もう一度自分のロッカーを開いて、私の包みを入れた。
かと思いきや、今日は一度も見かけていない小さな包みを取り出した。みぃはそれを、不器用に差し出してくる。
「ほれ」なんて言って。目線は反らしたまま。
「…なに?」
「な、なにって!…い、いらないなら別にカマキリになんてやらん…、」
「いっ、いる!いるいる!」
「…あっそ」
透明な包みを見れば、形の悪いチョコレート。きっと、手作りだなあって思ったらなんだか胸が締め付けられる。
「…また同点だね」
そう言えば、みぃは私の横を通り過ぎて笑った。
「真那に渡したのは失敗作やき、他のみんなには市販の買って渡したから」
「じゃあみぃの手作りは私だけじゃん。私の勝ちー」
「なっ、なにアホくさいこと言いゆう!真那のやつのが…、どうせあれやろ、上手くできたやつだけみぃのに包んだとか…、」
「それはないー!みぃのは上手くできなかったやつばっかー」
「はあーっ!!?」
二人で向かうレッスン場。行けばみんなはニヤニヤしながらこちらを見てた。
「いちゃいちゃしてんのはどっちだよー!」なんてゆりあに言われたみぃは、「うっさい焦げたこ焼きマン!」って追いかけ回している。それをおぎちゃんと私は笑いながら見ていた。
あの形の悪いチョコレートを思い浮かべる。
今回のバレンタイン、負けたのは、
私?それとも、
《負けたのは、》終
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