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「謙遜すんな。そういう奴の方が俺は好きだからな」
「恥ずかしい事をしれっと言ってくれるね。・・・ところで、これからはどうするんだ?東海に留まるつもりかい?」
「そうだな・・・一度、中東に帰ってみるかな」
「とすると、帰郷かな?」
「前も言ったろ、俺に故郷は無いんだって」
笑えない冗談を飛ばしてくるリウを、俺はあっさりと受け流した。
「ということは、また新たな居所と仕事探しか。私も、君に治してもらったこの体で引き続き
教えを説くことに努めていくとするよ」
「頑張れよ。それにしても、教会のお偉いさんなのによく医者の俺の手なんか借りようとしたよな」
「こちらこそ、前も言ったでしょ?・・・教会には教会の、個人には個人の信ずるところがそれぞれある。そのどちらも大切にすべきなんだって」
「やっぱお前は、他の坊さんとどっかが違うな」
「その言葉、いい意味だと信じてるよ。・・・じゃ、気をつけて行ってらっしゃい」
「ああ、そっちこそ元気でな」
―実の親とは生き別れ、育ての親も幼い頃に失い、身一つでモクタル・マリクという名医のもとへ流れ込み、俺はそいつを父親代わりに育った。
俺には、故郷というものが無い。親や家族というものの実感がない。どこが祖国なのか、それすらも手がかりが無い。
だから、どこの誰であろうと自分の手で治療を施し、助ける事に躊躇は無い。それが東海の人間であろうと、中東の人間であろうと、教会の坊さんであろうと、礼儀知らずの金持ちのオヤジであろうと。
俺はただ、相手が感謝してくれて、助けられたその身を生かしてくれたらそれ以上望む事は無かった―
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