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「おーそーいー」
寒さに身を縮ませながら帰宅した俺にかかった第一声がそれだ。
「待っている間にアイスも食べたくなっちゃった」
と、相好を崩す世界最悪の魔術師は、ボサボサの真っ黒い髪の毛を引きずりながら迫ってくるなり袋をふんだくってくる。
あ、殴ってやろうかな、と内なる闘志を燃やしてみたものの、前述の通り世界チャンピオンにも等しい相手に勝てるはずもないので却下。
雪で湿ったスニーカーを片手に、風呂場へと直行しようと決めた。
「お風呂?」
「風呂」
「真白も入る」
「そういえば……三日くらい入ってない?」
「さあ? ゆきりんは今まで食べたパンの枚数を覚えているのかな?」
「そういう話じゃないぜ」
自浄機能付きのお嬢様なので臭うことはないのだが、足首まで伸びた長髪までは文字通り手が回らないようで、ゴミ捨て場で時折見かける日本人形のような感じになっている。
酷いときには重力など無視して天井に触れるくらいに逆立つので、コレでもまだマシなほうだ。
脱衣場までは五十メートル近く廊下と縁側を歩く必要がある。
途中八つの部屋を通り過ぎて無事に到着。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、己の服を破ろうとする真白にストップをかけた。
「オマエはもう少し御淑やかになれよな。イチイチ豪快すぎるんだよ。三国時代の武将かよ」
「じゃあゆきりんが脱がしてよ」
万歳をする真白に、ムムムと逡巡すること三秒弱。
結局真白のワガママには勝てっこないので袖なしのワンピースの裾を握るなり、一気に引っこ抜く。
何とも豪胆なスカートめくり。
そのうえ真白は下着というものを嫌う変態裸族なので、一秒にも満たない一瞬で、児童ポルノを生成できてしまう。
浴室はそこらの銭湯よりも広く、浴槽はヒノキ造りだ。
風呂掃除がどれだけ大変なのかをこの家の主が理解していないのだから嫌になる。頼むから濁り系のバスクリンはやめてくれ。
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