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ペタペタという残念な足音を響かせて、真白は浴槽へダイヴする。
そのまま頭を打ち付けて死ねばいいのに。なんて考えてみたりもするけれど、彼女の命は俺の命に直結しているのでその結果は頂けない。
とはいえそんな心配はまるで無意味で、ちゃんちゃらおかしいのだけれども。
「それにしても贅沢ですなー。現役女子中学生と一緒にお風呂だなんてさ」
湯船に浸かった俺の両肩に両の脚を乗せて、女子中学生は言う。
起伏に乏しい真白の身体を一瞥してから確かに犯罪的だ、と二度頷いた。
「とりゃあ」
と、胸に飛び込んでくる世界最強の魔術師。
体勢的に軟体動物みたいになっているが、問題はないようだ。
「このまま挿入しちゃう?」
「しちゃわない」
肉薄した真白の顔面は嘘みたいに整っている。
氷晶を連想させる澄んだ眼球とか、一本一本が意思を持っていそうな長い睫毛とか、薄い唇から覗く濁りのない歯とか。
クリクリの瞳にツヤツヤでモチモチの肌とか――肉親でさえ性的な悪戯に及びそうな艶かしい美しさを彼女は纏っている。
しかし俺は騙されない。首を横に振りながら真白の双眸を凝視する。
要するに真白の美貌も魔術の類なのだろう。俺はそう言い聞かせている。
例えば人の社会を破壊するべく、妖怪が傾国の美女に化けるような感じで。
「さて、仕事の話なのだけれども」
吐息が首筋に触れる。
ほら、早速正体を現した。この女は十四歳にして精神を巧みに切り替える。
こうなったら真白はどんな悪魔よりも残酷で、どんな天使よりも冷酷だ。
「始末、したかな?」
「ぶっ殺したぜ。命令通りにね」
命令を強調して俺は頬を掻いた。
「そう、それはよかった。私が手に入れたい魔術の一つが雪貞のソレよね」
「それは光栄っす!」
なんて微笑んで真白を引き剥がす。
魔術に関しては史上最高と謳われている御門真白にも俺の魔術は再現ができないらしい。誇らしいやら悲しいやら。
「でもいい加減、オマエがやれよな。俺だといつもギリギリでもうしんどい。ちょっとコンビニどころの話じゃねーぞ。それに何よりも寒い」
それはもう情けないくらいに、瀬戸際の戦いなのだ。
俺は別にギリギリでいつも生きていたい人間ではないのだから勘弁して欲しい。
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