第3章

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「……顔に何かついてますか?」 急に無口になって見つめる私に、彼は口元を気にしている。 「早く良い奥さんが見付かるといいね、って思っただけ。」 それが私じゃなかったのが残念だけど。 はははっ、と照れ笑いする彼は、本当に10年前と何一つ変わらず…………。 それが、心の奥で眠っていた記憶を否応なしに呼び起こし、少しだけ胸が苦しめられた。 プルルル…。 突如、彼の携帯から呼び出し音が流れる。 彼は、画面で着信相手を確認すると、ちょっと外します、と慌てて店の外へ出ていった。 とりあえず一人で食事を続けていると、彼が申し訳なさそうに、席へ戻って来る。 「すみません。時間繰り上がっちゃって、今から出ます。……こっちが誘ったのに本当、申し訳ないです。」 自分が悪い訳じゃないのに、謝り倒す彼が気の毒になる。 「仕事なんだし仕方ないよ。私は大丈夫だから、行っていいよ。」 .
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