第4章

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10年前―――。 あの日は、いやに寒くて、滅多に雪の降らないこの街にも、粉雪がちらついていた。 本来なら外に出たくもない程の気温だったが、予定より早く待ち合わせ場所に到着した、私の心は熱を帯びて、雪をも溶かしそうだった。 彼らとの公演は、3ヶ月程前に無事終了し、次の公演予定はない。 私と鉄平さんが顔を合わせる機会はなくなってしまった。 会えなくなるからこそ、彼への気持ちは焦りを交えて加速していく。 この3ヶ月の間に、数回ながらも二人で夜景スポットへ遊びに行ったり、食事をしたりもした………が、全て私が誘えば、の話だ。 私が彼に抱いている好意には、きっと気付いているだろう…。 脈、ないのかな…………。 そう思いながらも、僅かな希望を抱き、私は今日こそ彼に思いを伝えるつもりだ。 待ち合わせ時刻を5分程過ぎたところで、彼が息を切らせながら姿を見せる。 「すみません、一本乗り遅れて……。」 「だ、大丈夫だよ。…そんなに待ってないから。」 …………駄目だ。意識し過ぎて、噛んじゃった……。 強く脈打つ鼓動が、彼にまで聞こえそうで、何とか気持ちを落ち着かせようと、小さく深呼吸した。 .
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